文部科学省の科学技術・学術審議会大学研究力強化部会は、2026年5月22日に第8回会合を開き、大学における戦略的裁量経費(戦略的経費)の活用実態に関する調査結果を報告しました。有限責任監査法人トーマツが実施した調査から、研究力強化に向けた大学の予算戦略の実態が明らかになっています。
【戦略的経費の実態】
調査対象は、国際卓越研究大学やJ-PEAKSに申請するなど研究力強化に取り組む大学です。大学の予算のうち、授業料や運営費交付金、受託研究収入など使途が制限されている資金と異なり、大学の経営判断で自由に配分できる戦略的経費は限定的です。多くの大学が、外部資金の間接経費や基金、寄附金から戦略的経費を生み出す工夫をしており、国立大学と私立大学で源泉や抽出方法に違いが見られました。
調査事例のある研究大学は、外部資金の間接経費の45%を本部の戦略的経費に充てるなど、財務部門と執行部のリーダーシップにより財源を集中させる仕組みを構築していました。制度上の制限がなくても、実務的には予算の「色づけ」により財源の融通が難しい大学が多い中、この大学は管理体制を整備することで柔軟な資金運用を実現しています。
【4つの主要な投資領域】
調査から、大学が自ら予算を確保して戦略的に投資する領域として4つのパターンが抽出されました。第一は、成功の不確実性が高いものの将来成長が期待できる萌芽的・挑戦的研究への投資です。特に若手研究者による基礎研究や横断的研究への支援が含まれます。
第二は、部局の枠を超えた全学的な研究への投資です。通常、部局配分予算は部局内での使用に限定されますが、全学マネジメントがリードして効果的に配分する取組が見られました。
第三は、外部資金の採択期間終了後、軌道に乗せるべき段階での移行コストへの充当です。有期の競争的研究費による支援が終了しても、研究の継続が判断される場合に大学が支援します。
第四は、複数年度にわたる中長期プロジェクトの実施に必要な資金の繰越しです。目的積立金や業務達成基準などの制度を活用しながら、年度を超えた資金確保を試みている大学が増えています。
【名古屋大学と九州大学の事例】
調査は産学連携で実績を上げる2大学の詳細分析も実施しました。名古屋大学では、40年以上前の基礎研究の段階から、組織風土と研究資金の存在が基盤を築いたこと、ノーベル物理学賞受賞後1年以内に共創の場を立ち上げ、戦略的な資源配分を実行したことが成功要因として挙げられました。その後、大型プロジェクトの垂直立ち上げと制度化、さらにベンチャーキャピタルの自己設立により、社会実装まで一貫した体制を構築しています。
九州大学では、地域の産業基盤(エネルギー・機械・マテリアル)と大学の強みを生かした地域共創が特徴です。水素研究拠点の整備に毎年継続投資し、2010年には専攻設置により安定的な教育研究基盤を整備しました。福岡県や福岡市との共同研究、産総研誘致を経て、2017年の国家戦略水素基本戦略と連動する形で国内外の投資を呼び込んでいます。2024年には100%子会社を設立し、社会実装を加速させています。
両大学に共通するのは、長期間にわたる研究環境と社会との共創環境への継続投資、及び優先順位の明確化による戦略的な予算配分です。国からの補助金と産業界からの投資を効果的に組み合わせながら、年表のように長期的視点で研究を進める姿勢が強調されています。
【学内意思決定プロセスの重要性】
調査では、戦略的経費の確保方法も調べられました。従来型は部局の予算要求を財務部や担当理事がまとめて、企画会・運営方針会議・役員会を経由するプロセスです。一方、先進的な大学はトップマネジメント自らが重点施策の検討組織を構成し、ヒアリングと対話を重視しながら戦略的経費を確保しており、これにより大学の戦略とKPI(重要業績評価指標)の結びつきが強まっています。
調査結果から、大学がガバナンスを効かせながら自立的に戦略的予算を活用する際、その支援の意義が高いことが示唆されました。多くの大学が戦略的経費の必要性を認識しており、学内の意思決定プロセスを整備して継続的に確保することが、研究力強化に有用であると結論付けられています。
出典:文部科学省ウェブサイト「科学技術・学術審議会 大学研究力強化部会(第8回)議事録」https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu35/gijiroku/00008.html
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