世界銀行は2026年5月、マレーシアの経済見通しと雇用戦略に関する報告書「天井を上げ、床を上げる:マレーシアの生産性政策としての雇用戦略」を発表しました。
【経済状況と見通し】
2025年のマレーシア経済は堅調で、第4四半期の成長率は6.3%に加速し、過去3年間で最高の四半期成長を記録しました。これは家計消費と投資の好調に支えられたものです。2026年の成長率は4.4%程度に緩和する見通しですが、グローバルな不確実性や輸出モメンタムの減速が影響する可能性があります。
労働市場は改善が顕著で、2025年第4四半期の労働力参加率は70.9%に上昇し、失業率は2.9%と2014年以来の低水準に低下しました。一方で絶対貧困率は2024年に5.1%(約41万6千世帯)に低下し、全国の貧困削減が進展しています。
【課題:賃金成長の停滞】
報告書が強調する主要な課題は、賃金成長がGDP成長に追いついていないという点です。2010年以降の賃金成長は鈍く、特に中所得層の労働者の賃金上昇が遅い傾向にあります。地域レベルでも格差があり、いくつかの州では中位賃金が全国最低賃金とほぼ同水準という問題が生じています。
より深刻なのは「高度職業訓練者の過小雇用」(スキル関連過小雇用)です。失業率は低いものの、特に大学卒業者を中心に、自分の資格水準より低い職に就いている労働者が多数存在します。大学卒業者が過小雇用された場合、賃金ペナルティは49.3%にも達するという分析結果が示されています。これは教育と労働市場需要のミスマッチを示唆しています。
【生産性格差と企業の成長停滞】
報告書によれば、賃金成長が遅い根本原因の一つは、高い賃金と生産性を提供する優良企業が成長していないことにあります。特に生産性が高い上位10%の企業(フロンティア企業)は平均的な企業と比べて従業員に3倍の賃金を支払っていますが、こうした企業のシェアと労働力吸収が過去10年間で悪化しています。さらに、デジタル・知識集約的産業での世界的リーダー企業との生産性ギャップが拡大しています。
こうした企業成長の停滞は、ビジネス環境が制限的であることに起因します。規制上の障壁、金融へのアクセス格差、競争制限、不十分な倒産処理プロセスなどが、資源をより生産性の高い企業へ流向させることを妨げています。
【必要な改革】
報告書は、高所得国へのさらなる発展に向けて、「天井を上げ」(生産性の高い企業の成長を促進)しながら「床を上げる」(包括的で力強い賃金成長)ための包括的改革が必要と提言しています。
その主要な政策提言は以下の通りです。まず、規制慣行と競争政策を強化し、ビジネス環境を改善すること。第二に、イノベーション・貿易融資を拡大し、技術生成・移転・商業化を支援すること。第三に、基礎スキルの向上と生涯学習、再スキル化プログラムを拡充すること。最後に、雇用主の関与、見習い制度、労働市場情報、AI関連スキル開発を通じて、スキル養成システムを需要志向的にすることです。
これらの改革により、マレーシアはより質の高い雇用を創造し、全労働者層の購買力向上を持続的に実現できるようになると報告書は結論づけています。
出典:世界銀行(World Bank) CC BY 4.0
http://www.worldbank.org/en/country/malaysia/publication/raising-the-ceiling-raising-the-floor-the-jobs-agenda-as-a-productivity-agenda-for-malaysia
